第4章
偽りの平穏と正常を装って、三週間が目まぐるしく過ぎ去った。私の唯一の逃げ道である大学院への出願に、全神経を注いでいた。
朝の日差しが寝室のブラインドから差し込み、机の上に散らかった大学院の出願書類に、光の筋を落としていた。
痛む首筋を揉みながら目覚まし時計に目をやると、午前七時を指していた。
ふらつきながら立ち上がり、顔を洗おうと洗面所へ向かおうとしたが、二歩も歩かないうちに、強烈な吐き気に襲われた。壁に手をつき、深呼吸を繰り返す。
「きっとストレスのせいだ」と自分に言い聞かせた。「出願を済ませれば、全部うまくいく」
めまいは酷くなる一方だったが、無理やり出願書類をかき集めた。
今日は桜川大学の出願締切日。最終確認と提出のために、あの個人経営の喫茶店へ行かなければならない。あそこのネット回線はうちより速いし、何より、悟から離れていられる。
この三週間、私たちは慎重に平穏を装ってきた。悟は私の出願計画に気づいているようだったが、直接止めようとはしなかった。
彼が何を待っているのか、私にはわかっていた。あの夜のことを私が告白するのを、私たちの間に何があったのか認めるのを待っているのだ。でも、私は決して口を開かない。彼の優奈との関係を壊す人間にはなれない。
近くにある「珈琲庵」は、焙煎された豆の豊かな香りで満ちていた。人目を避けるように隅の席を見つけ、最終確認のためノートパソコンを開く。志望理由書、推薦状、成績証明書。一通り目を通し、準備は万端、のはずだ。
「ラテのLサイズ、ダブルショットで」とバリスタに告げた。カフェインで意識をはっきりさせる必要があった。
しかし、バリスタがそのラテを運んできたとき、慣れ親しんだはずのコーヒーの香りが、突如として吐き気を催すものに変わった。胃がぐるぐるとかき混ぜられ、吐き気は今朝の十倍も酷い。
「う、そ……」口元を押さえ、トイレに駆け込んだ。
ドアをくぐった途端、完全に限界が来た。胃の中のものがすべて逆流してくる。激しい嘔吐に涙が滲み、便器の縁を掴むと、全身ががくがくと震えた。
「お客様?お客様、大丈夫ですか?」外からバリスタの心配そうな声が聞こえる。「救急車を呼びましょうか?」
ティッシュペーパーで口元を拭う。顔はきっと真っ青だろう。「だ、大丈夫です」と震える声で答えた。
吐き気が少しずつ収まっていくにつれて、恐ろしい考えが頭をもたげてきた。最後の生理がいつだったか思い出そうとしたが、ストレスと寝不足で時間の感覚がめちゃくちゃになっていた。
最後に来たのって、いつ……?
冷たい蔓が心臓に絡みつくように、パニックが胸の中に広がっていく。いや、そんなはずがない。
けれど、記憶が洪水のように押し寄せてくる。忘れようとしていた断片的な光景、些細なディテール。悟の手、彼の唇、そして……。しぬ!
「最悪……」私は両手で顔を覆い、そう呟いた。
犯罪者のように薬局に忍び込み、コンドームや潤滑ゼリーの棚の近くで妊娠検査薬を見つけ出した。レジ係は二十歳そこそこの男の子で、彼にお金を渡す私の手は震えていた。
「袋、いりますか?」と彼が訊いた。
「いりません」私は検査薬をひったくると、店のドアから飛び出した。
家に戻ると、まっすぐ二階のバスルームへ向かった。地下室から音楽が聞こえてくる。悟がレコーディングスタジオで作業しているのだ。両親は二人とも外出していて、家には私たち二人きりだった。
バスルームのドアに鍵をかけ、震える手でパッケージを開ける。説明書の文字が紙の上で踊っているようで、検査の手順を理解するのに三度も読み返さなければならなかった。
三分。答えが出るまで、ただ三分間待てばいい。
冷たいタイルの床に座り込み、その小さなプラスチックのスティックを見つめていた。心臓が胸から飛び出しそうなほど速く鼓動している。
一本の線が現れた。そして……
二本目の線。
くっきりと、否定しようのない、ピンク色の二本目の線。
「そんな……」私の声はかろうじて囁きになった。「こんなこと、ありえない……しぬ!」
しかし、妊娠検査薬は嘘をつかない。私は妊娠している。悟の子を宿している。誰にも父親の名を明かせない子供を、私は身ごもっているのだ。
涙で視界が滲み始めた。どうしてこんなに馬鹿だったんだろう?どうしてこんなことを許してしまったんだろう?悟には優奈がいる、二人は付き合っている。そして私は……私は何になってしまったの?
家庭を壊す女。そして今、彼の子を妊娠している。
「どうして……」床に崩れ落ちると、検査薬が手から滑り落ちた。この子は存在してはいけない。存在させてはいけない。この子を盾に、悟と優奈の関係を、私たちの家族を壊すわけにはいかない。
混乱した思考をまとめようとしていると、階下から足音が響いてきた。
「舞?」階段の方から悟の声がした。「帰ってたのか?」
まずい。慌てて妊娠検査薬を掴み、洗面台の下のゴミ箱の底に押し込み、ティッシュで覆い隠した。
「バスルームか?物音がしたけど」彼の声が近づき、続いて優しくドアをノックする音がした。
急いで顔に水をかけたが、鏡に映る自分の顔は恐ろしいほど青白かった。
「……すぐ出る」声をなんとか普通に装おうとした。
ドアを開けると、悟がドアフレームに寄りかかっていた。着古したニルヴァーナのTシャツ姿で、ヘッドフォンを外したばかりの髪が少し乱れている。眉をひそめ、その深い茶色の瞳は心配に満ちていた。
「舞、顔色が酷いぞ」彼は一歩前に出て、反射的に私の額に触れようとした。「具合でも悪いのか?」
私は彼の接触を避けるように後ずさった。彼に触れられたら、完全に崩れてしまいそうだった。「ちょっと……女の子のアレだから」彼の視線を避けて言った。「大したことない」
「女の子のアレ?」彼は眉を上げた。明らかに私の説明を信じていない。「舞、お前、倒れそうだぞ。母に電話して、来てもらう」
「だめ!」あまりに早く、必死に言い過ぎてしまった。悟の表情がさらに鋭くなる。「っていうか、やめて。お母さん、今日ヨガ教室だから、邪魔したくない。少し休めば大丈夫だから」
悟は私を静かに観察した。その見慣れた強い眼差しに、私は完全に裸にされたような気分だった。
「そう言うなら」彼はついに言ったが、声に含まれる心配は消えていなかった。「今日、何か食べたか?」
私は首を横に振った。声が震えそうで、話す勇気が出なかった。
「スープでも作ってやる」彼は階下へ行こうと踵を返した。
「悟」私が呼び止めると、彼はすぐに振り返った。その瞬間、すべてを打ち明けてしまいたい衝動が、胸を突き上げた。彼の腕の中に身を投げ出し、このどうしようもない状況を終わらせてほしいと。だが、優奈の面影が、彼のギターバッグに結ばれた彼女のヘアゴムと共に、私の脳裏をよぎり、言葉を飲み込んだ。
「何?」彼は優しく訊ねた。
「ありがとう」それが、私に言える唯一の言葉だった。
彼の表情が和らぎ、その優しさが私の防御をほとんど完全に破壊しそうになった。「俺に礼なんて言うなよ、舞。絶対に」
その夜、私は寝室のドアに鍵をかけ、ノートパソコンを開いた。しかし、出願のメールを確認する代わりに、私は「葵川市女性クリニック」と検索していた。
画面には次から次へと情報がスクロールしていく。予約時間、処置の説明、費用……。マウスを持つ手が震えた。
こんなことは望んでいなかった。私の計画には決してなかったことだ。でも、私に選択肢はなかった。
「予約を確定する」ボタンをクリックしたとき、涙が再び視界をぼやかせた。
『悟に知られてはいけない……』私は心の中で繰り返した。『彼には優奈がいる。この子で二人を壊すわけにはいかない……』
なのに、どうしてこんなに心が痛むのだろう?どうして、自分の一部を殺しているような気分になるのだろう?
