第206章

「彼氏、か」

氷川晨は鼻で笑う。その冷たい瞳の奥には、押し殺した怒りが渦巻いていた。低く、危険な響きを帯びた声が続く。

「高橋空が本気でお前を好いているとでも?」

葉原遥子はふっと笑みをこぼし、平然と言い放つ。

「どうでもいいわ」

その言葉に、氷川晨の瞳がわずかに収縮する。掴んでいた手に込められた力が、無意識のうちに緩んだ。

葉原遥子はその隙を逃さず腕を振りほどくと、一度も振り返ることなく出口へと歩き出した。

「葉原遥子!」

背後から氷川晨の声が追いかけてくる。それは、押し潰されたような掠れ声を帯びていた。

「後悔することになるぞ」

葉原遥子は足を止めることなく、口元に冷...

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