第77章

パァンッ!

氷川晨の少し冷たい唇が、葉原遥子が固く結んだ紅唇に触れるか触れないかのところで、彼女は容赦なく彼の頬を張った。

「氷川晨! いい加減にしてくれない?」葉原遥子は眉を顰め、怒りを込めて言った。「佐藤愛と寝ただけじゃ足りないわけ?」

「俺は……」氷川晨の右頬が火が点いたように熱い。葉原遥子に平手打ちされたのは初めてではないが、今回に限っては怒りは湧かず、むしろ珍しく狼狽の色が顔に浮かんでいた。「遥子、話を聞いてくれ!」

彼の体からは、艶めかしくも乱れた気配が漂っていた。甘ったるい香水の匂いと、微かなアルコールの香りが混じり合い、葉原遥子をただただ吐き気のするような気分にさせる...

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