第147章 突発事態

新井爺さんの冷たい鼻息がまだ空気に残っている、そのときだった。

宴会場の左手、窓際の席がふいにざわついた。

グラスが倒れた音でも、誰かがつまずいた悲鳴でもない。

どすっ、と――身体が絨毯に叩きつけられる、鈍い衝撃音。

つづけて若い女の声が響く。

「おじいちゃん! おじいちゃん、どうしたの!」

一斉に視線がそちらへ吸い寄せられた。

窓際の円卓のそば。濃いグレーのスーツを着た老人が椅子にもたれたまま傾き、頭が肩のくぼみに落ちている。顔色は灰色に近く、唇は紫。

手元の湯呑みは倒れ、茶がテーブルクロスを伝って滴り、ベージュの絨毯に濃い染みを広げていた。

江口爺さんは今夜、ひとりで来...

ログインして続きを読む