第30章 自分で手を下さなくてもいい

いつからいたのか――廊下の曲がり角に、男子生徒が一人立っていた。スマホを握りしめ、口は卵が入るほどに開いたまま。

彼は目を見開いてその男を凝視する。顔の表情が、驚愕から戦慄へ、戦慄から信じがたいものへと、段階を踏んで塗り替えられていった。

「新井グループの、新井殿……?」

震える声。けれど言葉だけは妙にくっきりしている。

「その……その、新井家の……」

一瞬で、廊下が沸騰した。

「新井飛鳥? あの新井飛鳥なの!?」

「嘘でしょ……新井家の人が、うちの学校に来るわけ……」

「見て、車――下の黒いマイバッハ! 雑誌で見たことある。新井飛鳥の車、あれと同じ型!」

「マジで本人? ...

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