第2章
翌朝、私は「TAKEYA COFFEE」へ向かった。こっちのアーティストたちの間で一番人気の、ここ三年ほど私がほとんど毎日通っているコーヒーショップだ。日常が必要だった。世界が完全に崩壊したわけではないと証明してくれる、見慣れた環境が必要だった。
だが、ドアを押し開けた瞬間、すべてが変わってしまったことを悟った。
いつもは温かく挨拶してくれるアーティストたちが、今は意図的に私と視線を合わせようとしない。健太は隅の席でスマートフォンに顔をうずめるようにしており、麻美は私が入ってきた途端、さっと顔をそむけて別の人と話し始めた。店全体の空気が、急によそよそしく、息苦しいものに感じられた。
私は周りの奇妙な雰囲気に気づかないふりをしながら、無理やりカウンターに向かって歩いた。しかし、アーティストたちがいるテーブルのそばを通り過ぎたとき、彼らのひそひそ話がはっきりと耳に届いた。
「恵介との関係は本物じゃなかったんだって――彼の人脈を利用しようとしてただけらしいよ」
足が、一瞬もつれた。
「紗江子さんが言ってたけど、彼女には本当の才能なんてなくて、被害者ぶって、可哀想なふりをするのが上手いだけなんだって」
「そりゃ恵介も釈明するわけだ。あんなふうにまとわりつかれたら誰だって嫌だろ」
「哀れなのは哀れだけど、やり方が本当にゲスいよね」
一つ一つの言葉が、針のように私の心を突き刺す。振り返って言い返したかったが、足は床に釘付けにされたようだった。
カウンターに着くと、いつも笑顔の誠が、私を見て明らかに冷たい表情を浮かべた。
「アメリカーノを一つ、お願いします」私は声を平静に保った。
誠は頷いたが、いつものようにおしゃべりはしてこなかった。
私は尋ねずにはいられなかった。「誠さん、私たち三年の付き合いですよね。あなたもあの噂を信じるんですか?」
誠は私の視線を避け、ミルクをスチームしながら言った。「瑠奈さん、俺は誰のことも判断しないよ。でも、商売は商売だからさ。今、常連のお客さんたちがいろいろ言ってて……」
彼は最後まで言わなかったが、意味は明らかだった。私の存在が、彼の商売に影響を与え始めているのだ。
私は千円札を置き、コーヒーを受け取って店を出た。背後からはさらに囁き声が追いかけてきて、その一言一言が私の人格への裁きのようだった。
コーヒーショップを出てすぐ、アトリエの前の桜通りに恵介が立っているのが見えた。十月の陽光が彼の顔を照らし、相変わらず成功者然として見える。だが今、その顔には偽善しか見えなかった。
彼は私を見ると、表情を計算された「罪悪感」へと切り替えた。役者だけが持つ、完璧な感情コントロールだ。
「瑠奈、昨夜のことは理解してほしい。ギャラリーの評判や投資家との関係を考えなければならなかったんだ」
彼の声には、駄々をこねる子供をなだめるような、見下した忍耐強さが含まれていた。
「評判?」私の声は震えていた。恐怖からではない、怒りからだ。「私の気持ちは?私たちの三年間は?」
「僕たちはまだ友達だ」恵介は素早く言った。「君のアート活動はこれからも支援する。でも、紗江子さんは繊細なんだ。君には……」
「私に何だって言うの?」私は彼の言葉を遮った。「紗江子さんの邪魔をするなと?あなたの完璧なラブストーリーに疑問を挟むなと?」
「瑠奈、そんなふうにならないでくれ」恵介の忍耐も尽きかけていた。「アート界がどれだけ現実的か、君も知っているだろう。僕は君に機会を与えたし、今もその支援を撤回するつもりはない。でも君は……」
「私にどうしろって言うの?」私の声は大きくなり、通りを行く人々がこちらを見始めた。「あなたの『施し』に感謝しろと?哀れな新進アーティストみたいに扱ってくれてありがとうって言えと?」
「瑠奈、何を言っているんだ?僕は一度も……」
「一度も何?昨夜、みんなの前で私に恥をかかせなかったと?私を必死で惨めな捨てられる女のように見せなかったと?」
私はコーヒーカップを強く握りしめ、指の関節が怒りで白くなった。三年間溜め込んできた不満、屈辱、そして裏切られた怒りが、その瞬間に一気に爆発した。
「恵介、私が一番うんざりしてるのが何か分かる?あなたが紗江子さんを選んだことじゃない――あなたが私のことを言った言葉よ。『プロとしての自殺行為』?『彼女のレベル』?私たちの三年間を、一体何だと思ってたの?」
恵介の表情が苛立ちに変わった。「瑠奈、落ち着くんだ。アート界はそういう現実的なものなんだよ。私情で自分のキャリアを台無しにはできない……」
「キャリア?」私は完全に自制心を失った。「私は?私のキャリアは?私の三年間は、どうなるの?」
そう言うと同時に、私はコーヒーを恵介の顔に真正面からぶちまけた。
熱いコーヒーが彼の白いシャツに飛び散り、茶色い染みを作る。恵介は衝撃によろめき、顔からコーヒーを拭いながら、その表情を罪悪感から怒りへと変えた。
「何をする、瑠奈!」
三年間抑圧してきたものが、ついに捌け口を見つけた。あの一杯のコーヒーには、私の怒りと絶望のすべてが込められていた。
その時、視界の隅で何かが光るのを感じた。顔を向けると、通りの向こう側で野球帽をかぶった男が望遠レンズをこちらに向け、賑やかな通りの騒音の中でもはっきりと聞こえるシャッター音を立てていた。
一瞬、彼と目が合った。男は素早くカメラを片付けると、人混みの中へと消えていった。
背筋に冷たいものが走った。誰かが私を見ていた。私の「狂ったような」行動を撮影していた。これは偶然ではない。
恵介はまだ悪態をつきながら服を整えており、今しがた撮影されたことには全く気づいていない。しかし、私には分かった。あの光景は記録されたのだ。間もなく、森野瑠奈が元恋人にコーヒーを浴びせる写真がアート界全体に出回るだろう――私が「情緒不安定」で「プロ失格」だと証明する、完璧な証拠として。
