第6章

黒川区の午後十一時、通りは不気味なほど静まり返っており、遠くから聞こえる車の走行音だけが沈黙を破っていた。私はアトリエから一歩踏み出し、コートの襟をきつく掻き合わせた。頭の中では、昨日の紗江子との一件が繰り返し再生されていた。あの録音は確かに切り札になる。だが、それだけでは不十分だ――もっと多くの証拠が必要だった。

二十四時間営業のコインランドリーの蛍光灯が、闇の中で不気味な白い光を明滅させている。薄暗い空間では、数台の洗濯機が低く唸りを上げていた。次の一手を考えるための静かな場所を探してここに来ただけだったが、そのとき、背後で足音が聞こえた。

「森野瑠奈さん、ですよね?」

弾か...

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