第3章
私のスマホが母の顔で光った。ビデオ通話だ。
危うく拒否するところだった。でも、誰かが必要だった。母が必要だった。
「あら、早穂! ちょうどあなたのことを考えていたところよ――待って、泣いているの? どうしたの?」
すると、堰を切ったようにすべてが溢れ出した。卒業旅行のこと。バーのこと。あの素敵な見知らぬ人のこと。翌朝のこと。どうしても繋がらなかった電話番号のこと。そして今、バスルームのカウンターに置かれている三つの陽性反応が出た妊娠検査薬のこと。
「まあ、早穂」母は、ショックを受けていないように必死で取り繕うような顔をしていた。「わかったわ。まずは一息ついて。お父さんも私もここにいる。一緒に解決策を見つけましょう、いい?」
フレームに父の顔が現れ、心配そうにこちらを見ている。「早穂? どうしたんだ?」
「お父さん、私、妊娠したの。どうしたらいいかわからない。何をすべきなのか、全然わからないの」
二人は永遠に感じられるほどの間、黙り込んでいた。やがて母が言った。「あなたはどうしたいの、ねえ? 今一番大事なのはそれだけよ」
私はどうしたいんだろう?
自分のお腹を見下ろす。この中には、小さな命が育っている。たった一度の、無謀で、美しい夜から生まれた、一個の人間。私にとって何か意味のある夜だと思っていたのに。
「この子を産みたい」意識的に決断する前に、言葉が口をついて出た。「完全に正気じゃないし、準備なんて全然できてないのはわかってる。でも、この子が欲しいの」
「それなら、私たちは百パーセント、あなたの味方だ」父が、毅然とした声で言った。「何が必要でも、私たちがいる」
「すごく怖い」
「ええ、そうでしょうね、早穂」母は自分の目元を拭っていた。「でも、あなたは自分が思っているよりずっと強い子よ。それに、これは一人でやることじゃない。私たちがすぐそばにいるわ」
電話を切った後、私はただバスルームの冷たい床に座り込み、陽性反応の出た検査薬をじっと見つめていた。私の全人生が、わずか五分の間に変わってしまった。私は誰かの母親になるのだ。
そして、勇気とかいう、どこの誰とも知れない男がいなくても、私はそれをやり遂げる。
その日の午後、山田真彩に半ば強引に引っ張られて、初めての妊婦検診へ向かった。その朝、彼女にメッセージを送っていたのだ。「うちに来れる? どうしても話したいことがあるの」
彼女は二十分後、サーティワンのアイスとティッシュの箱を抱えて現れた。私が妊娠していると告げると、彼女は完全に沈黙し、ただ私をじっと見つめていた。
「妊娠してるって」彼女はついに言った。
「三ヶ月」と私は言った。
「うそでしょ、今になって気づいたの?」彼女は息を呑んだ。
彼女の顔を見ることができなかった。「私……生理が不順で、信じるのが怖くて……だからずっと避けてたんだけど、今朝ついに……」
「早穂、父親は誰なの? どこにいるの?」
私は首を振った。「それは関係ない。連絡が取れないの」
「連絡が取れないってどういうこと?」彼女の声が鋭くなった。「まさかそいつ、あなたを妊娠させておいて、音信不通になったってわけ?」
「一夜限りのことだったの。番号はもらったけど、繋がらなかった」
山田真彩の表情は色々変化した後、最終的に猛烈な怒りに落ち着いた。「そんなことするなんて、どんなクズよ? 本気で、どういう人間なの?」
「真彩――」
「ううん、本気で言ってる。今まで聞いた中で、正真正銘、一番胸糞悪い話だわ」彼女は私の両手を取った。「でも、聞いて? あいつなんてクソくらえよ。そんなろくでなし、必要ないわ。あなたには私がいる。それに私は、史上最高の叔母さんになってやるんだから」
私が再び泣き出すと、彼女は私をきつく抱きしめた。
「一緒にやるのよ」彼女は厳しい口調で言った。「早穂と、私と、この赤ちゃんで。あんなろくでなし、あなたたちの人生に関わる資格なんてないんだから」
私がまだ彼のことを四六時中考えていることも、彼の手書きのメモをまだ持っていることも、馬鹿で哀れな自分の一部が、彼がどうにかして電話をかけてきてくれることをまだ望んでいることも、彼女には言わなかった。
病院の診察室で、超音波検査の技師さんが私のお腹に冷たいジェルを絞り出す間、山田真彩は私の手を握ってくれていた。彼女は探触子をあちこち動かした。
「赤ちゃん、ここにいますよ」技師さんは、ざらついた画面を指差して言った。
あの小さな、点滅する光が、私の子ども。私の娘か息子。本物の人間。
「ああ、すごい」私は囁いた。「本当に、本当にいるんだ」
山田真彩は私の手を強く握った。「うん。本当に、本当にいるね」
六ヶ月後、私は午前三時に病院のベッドにいて、ベッドの柵を、へし折ってしまいそうなほど強く握りしめていた。
「すごく上手ですよ、津崎さん」看護師が左手のどこかから言った。「あともう少しです」
あともう少し。私はもう十四時間も陣痛に耐えていた。体中が痛い。疲れ果てて、怖くて、ただもうこれを終わらせてしまいたかった。
片側には山田真彩が、もう片側には母がいた。父は私がこんなに苦しんでいるのを見るに耐えられないと言って、待合室にいた。
「もう無理」陣痛の合間に、私は喘いだ。「本気で、もう――」
「ううん、絶対にできるわ」山田真彩が断固として言った。「あなたは私が知る中で一番強い人なんだから。あなたなら何だってできる」
「最後にもう一回、大きく息んで、津崎さん」医者が言った。「さあ、あなたならできる」
私は残された力のすべてを振り絞っていきんだ。自分の叫び声が聞こえた。何かがずれ、解放されるのを感じた。
そして、泣き声がした。甲高く、怒りに満ちた声。私のじゃない。
「女の子ですよ!」医者は、この小さくて、真っ赤な顔をした、猛烈に怒っている小さな生き物を抱き上げた。「おめでとう、津崎さん」
私の胸の上にその子が置かれた。信じられないほど小さくて、完璧だった。小さな拳が私の病院着を握りしめている。目は固く閉じられている。小さな頭には黒い髪が張り付いていて、私の全人生で見てきた中で最も美しい存在だった。
「こんにちは、愛花」私は涙ながらに囁いた。「こんにちは、可愛い子。私がママよ。この世界の何よりもあなたを愛してる」
彼女がかすかな音を立てると、私の心臓は百万個のかけらになって爆発しそうだった。
山田真彩も泣いていて、愛花をよく見ようと身を乗り出していた。「完璧な子よ、早穂。見て」
山田真彩は慎重に手を伸ばし、愛花の信じられないほど小さな手に指一本で触れた。「こんにちは、可愛い子。私があなたの真彩おばさんよ」
私は娘をさらに強く抱きしめ、その温もりを感じ、小さな胸が呼吸するたびに上下するのを感じた。これが、今の私の家族。私と愛花、そして私たちのそばにいる真彩。
「私たち、きっと大丈夫よ」私は囁いた。それが愛花に言っているのか、自分自身に言っているのか、それとも両方に言っているのかはわからなかった。「私たち、一緒に乗り越えていこうね」
