第160章

車内には、奇妙な沈黙が流れていた。

聞こえるのはエンジンの低い唸りと、窓の外を掠め去る風の音だけ。

神山律は運転に集中しているように見えたが、ハンドルを握る指の関節は、無意識のうちに白く強張っていた。

彼は何気ない素振りで、バックミラーの角度を調整した。

鏡面には、窓際で物憂げに頬杖をつく綾瀬茉莉の横顔が映り込んだ。

「綾瀬お嬢さん」

温和な声が沈黙を破る。

「霧生社長は実に威厳のある方ですね。若くして霧生グループを束ねる手腕、感服いたしました」

彼は一呼吸置いた。あくまで礼儀としての世間話の延長といった風情で、言葉を継ぐ。

「お二人の食事のご様子、随分と親しげに見えました...

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