第182章

彼女は消え入りそうな声で言った。

「な、何でもありません……ただの回診です。綾瀬お嬢様、どうぞお大事に。わ、私はこれで……」

 彼女はそう言い捨てると、綾瀬茉莉の顔を直視することさえできず、逃げるように病室を出ていった。

 唯一の求救の機会が、目の前で無残にも潰えた。

 綾瀬茉莉は静葉という少女の純真な仮面の下に潜む悪魔の本性を目の当たりにし、心底凍りついた。

 病室のドアが再び閉ざされる。それは外部からの視線を遮断すると同時に、綾瀬茉莉の心に灯りかけた希望の光をも遮断した。

 静葉は相変わらずベッドの脇にへばりつき、綾瀬茉莉の無事な右手の指をぎゅっと握りしめていた。その力は決し...

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