第6章

私は、原告席に座っていた。首筋にはまだ、天野誠也に振るわれた暴力の痕跡が、うっすらとシミのように残っている。

「提出されたすべての証拠に基づき、天野誠也氏に対し、即時、緊急接近禁止命令を発令します」

原田裁判官が、厳かに告げた。

すかさず、加藤先生が身を乗り出す。

「裁判長、これ以上の横領被害を防ぐため、緊急資産凍結の申し立てもお願いします」

誠也に付けられた国選弁護人が、居心地悪そうに身じろぎした。

「私の依頼人は無罪を主張しており、相応の保釈金を要求します」

原田裁判官の視線は、氷のように冷たかった。

「保釈金は三億円とします。逃亡の恐れ、および前科を考慮し、被...

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