第1章
伊佐子視点
私は海斗商事のロビーにあるソファに腰掛け、彼のために買ったばかりのコーヒーを手にしていた。受付の女性社員たちが通り過ぎるたび、羨望の眼差しをこちらへ向けてくる。
「伊佐子さんって、毎日海斗さんを迎えに来てて、本当に気が利くよね」
「わかる。すごく仲がいいんだね。私もあんな彼氏が欲しいなあ」
私は彼女たちに愛想笑いを返しながらも、心の中は空っぽだった。もし彼女たちが本当の理由を知ったら、私が甲斐甲斐しさからではなく、家に一人でいるのが怖くて、自分の考えと向き合うことから逃げるためにここに来ているのだと知ったら……
それでも同じことを言うだろうか。
ロビーの隅では、若い夫婦が五、六歳くらいの女の子をなだめていた。
「パパ、アイス食べたい!」少女は父親の袖を引っ張り、期待に満ちた瞳を向けている。
「でも、今は冬だよ。風邪をひいちゃうよ」父親は優しく首を振った。
「でも、どうしても食べたいの!」少女は駄々をこねはじめ、声には涙が滲んでいる。
私は父親が断り続けるものだと思っていた。外は雪が降っていて、気温は氷点下に近いのだから。しかし、母親が立ち上がって父親の肩を叩いた。「いいじゃない、一つくらい。あの子が欲しがってるんだから、買ってあげましょ」
十分後、三人が戻ってきた。少女は幸せそうにストロベリーのアイスクリームを舐めていて、両親にも一口味見させてあげるのを忘れなかった。
「甘い?」
「甘い!」
「じゃあ、ママとパパも食べて」
その和やかな光景を見ていると、突然、何かが私の心を強く打った。
これが、無条件に愛されるということなんだ。
記憶が潮のように押し寄せてくる。
五歳の冬、私は養父母に引き取られたばかりだった。当時の彼らは私にとても優しかった。真琴お母さんは可愛いワンピースを買ってくれ、正雄お父さんは週末になると公園に連れて行ってくれた。あの日も、あの女の子のように、雪の日にアイスクリームが欲しいとねだったのを覚えている。
「ママ、アイスが食べたい」私はおずおずと真琴の手を引いた。
「こんな寒い日に?」彼女は一瞬驚いた後、優しく微笑んだ。「いいわよ、買いに行きましょう」
その日、私たちはバニラアイスを買った。私は一口だけ食べると、真琴に差し出した。「ママも食べて」
「甘いわね。うちの伊佐子は本当に優しい子だわ」彼女は私の頭を撫でた。
それは私の人生で最も幸せな時間だった。ようやく本当の家、私を愛してくれる本当の両親ができたのだと思った。
そして、彩音が生まれた。
八歳のあの日の午後を、私は決して忘れない。真琴は赤ん坊の彩音を腕に抱き、私が一度も見たことのない光をその目に宿していた。
「この子は、私の本当の娘なの」真琴は彩音の小さな顔を優しく撫でながら、満足感に満ちた声で言った。「私のお腹を痛めて産んだ子よ」
私は産婦人科の病室のドアの前に立ち尽くし、世界から音が消えたような気がした。
その瞬間、私は理解したのだ。これまでの愛情はすべて、彼らが自分の子供が生まれるのを待つ間の、代用品に過ぎなかったのだと。
その後の変化は、私が追いつけないほど速かった。
私の部屋――ユニコーンのステッカーが貼られたピンク色の部屋――は、彩音のぬいぐるみを置く物置部屋に変わった。私のベッドも、机も、すべてのものが地下の納戸を改造した部屋に移された。
「伊佐子、お前ももう大きいんだから、自立を覚えなさい」正雄は納戸のドアの前に立ち、天気の話でもするかのような平坦な口調で言った。「それに、俺たちが引き取ってやったんだ。感謝して、心配をかけるんじゃない」
引き取ってやった。
養子にしたのでも、愛したのでもなく――引き取ってやった。
まるで野良猫でも拾うかのように。それでも、私は食べ物を奪い合わなければならないあの孤児院には戻りたくなかった。
それから私は、人の顔色を窺うことを覚え、自分の欲求を隠すことを覚え、すべてが順調なふりをするようになった。なぜなら、私が少しでも不満や悲しみを見せると、正雄は決まってこう言ったからだ。「家を与えてやったのに、これ以上何を望むんだ。恩知らずの子供はろくな末路を辿らないぞ」
「伊佐子?」
聞き慣れた声に、私は記憶から引き戻された。顔を上げると、エレベーターのドアのそばに海斗が立っていて、心配そうな顔でこちらを見ていた。
「疲れてるみたいだね」彼はそばに来て隣に座ると、私の頬にそっと触れた。
私は反射的に無理な笑顔を作った。「ただ、会いたかったの」
これが私のいつもの答えだった。何があっても、どんなに疲れていても、どんなに辛くても、私はいつも「ただ、会いたかったの」と言う。正雄の言葉がまだ耳の奥で響いているからだ。恩知らずはろくな末路を辿らない。
でも、海斗は違った。
私が眠れないと言えば、午前二時でも電話に出てくれる。食欲がないと言えば、私の好きなパスタを自分で作ってくれる。私が落ち込んでいると抱きしめて、「伊佐子は世界中の良いものをすべて手にする価値があるんだ」と言ってくれる。
そして何より、彼は私に感謝を求めなかった。あのアイスクリームを欲しがった女の子に対する両親のように、彼は私を愛してくれた――無条件に、見返りを何も期待せずに。
彼は立ち上がり、私の手を取った。「もうすぐ結婚するからって、緊張してるんじゃないだろうな?」
心臓が跳ねた。
結婚。
その言葉は、私にとって何を意味するのだろう。ようやく本当の家が手に入るということ?もう偽りの自分を演じたり、弱さを隠したりしなくていいということ?
「明日、おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行って、良い知らせを伝えよう」海斗の目は興奮で輝いていた。「二人とも、早く結婚しろって急かしてたからね」
「うん」私は彼の手を強く握り返した。「明日、行こう」
オフィスビルを出て、私はさっきの隅を振り返った。あの親子三人はもういなかったけれど、愛されることの温かい感覚は、まだ私の心の中で静かに輝いていた。
いつか、私もあんな愛を手に入れる。
いつか、私も誰かにとって一番大切な人になれる。
代用品じゃない、本当の私として。
