第2章

伊佐子視点

週末の陽光が田舎道に降り注ぐ中、海斗が私の手を握り、見慣れた白い別荘へとゆっくり車を走らせていた。もう三年になる。月に二度、雨の日も晴れの日も、こうして通っている。

「おばあちゃんたち、またご馳走をたくさん用意してくれてるんだろうな」海斗が私に目をやり、その瞳には優しさが満ちていた。「伊佐子が美味しそうに食べるのを見るのが、大好きなんだよ」

私は頷いた。胸の奥がじんわりと温かくなる。うん、ここだけが、私に本当の家の温もりを教えてくれる。

車が玄関先に停まると、私たちが降りるよりも早く、おばあちゃんの弾んだ声が聞こえてきた。「海斗! 伊佐子ちゃん! よく来たねえ!」

八十歳になるおばあちゃんが、駆け寄るようにして出迎えてくれた。陽光を浴びて銀髪がきらきらと輝いている。おばあちゃんはすぐに私の手を取り、愛情に満ちた瞳で私を見つめた。

「可愛いお嫁さん、おばあちゃんに顔をよく見せてごらん」そう言って、私の顔をまじまじと覗き込む。「また痩せたじゃないの。顔色も良くないわよ」

「大丈夫ですよ」少し気恥ずかしいけれど、まるで温かいスープを飲んだみたいに、心がほっこりした。

「大丈夫なもんかね。ちゃんと食べてないのは見ればわかるよ」おばあちゃんは私を家の中へと引っ張っていく。「今日は伊佐子ちゃんの大好物の豚の角煮を作ったんだから。アップルパイもあるよ」

リビングから、おじいちゃんが人の好さそうな笑みを浮かべて顔を出した。「また始まった、ばあさんの心配性が。伊佐子ちゃん、気にしないでいいんだよ。心配するのが趣味みたいなもんだからな」

「なんですって」おばあちゃんはおじいちゃんを睨むふりをする。「私がお嫁さんのことを心配して、どこが悪いのよ」

私のことで言い合う二人を見て、ふと、目の奥が熱くなった。誰かに気にかけてもらえる、大切に思ってもらえるこの感覚、それは、幼い頃に失って以来、ずっと味わえなかったものだった。

食卓では、おばあちゃんがひっきりなしに私の器に料理を盛ってくれる。

「伊佐子ちゃん、これももっとお食べ。また痩せたでしょう」

「この海老も食べなさい。新鮮で体にいいんだから」

「このスープは三時間も煮込んだんだよ。熱いうちに飲んでね」

器に山と盛られた料理を見ながら、複雑な気持ちになる。不思議なことに、普段、家では食欲がなくて、一日数口しか食べられないこともあるのに、おばあちゃんが作ってくれたものは何でも格別に美味しくて、いつもたくさん食べられるのだ。

「ほら、もう顔色が良くなってきたじゃないか」おじいちゃんがにこにこしながら言った。

海斗が私を優しく見つめる。「うん、伊佐子はいつもここでだと、すごく食欲があるんだ」

「当たり前じゃないの」おばあちゃんは得意げに胸を張る。「六十年も料理を作ってるんだから。若い子の食欲をそそるコツくらい、わかってるわよ」

私は箸を置き、食卓の横にある写真が飾られた壁に目をやった。そこには一枚の家族写真が掛かっている。海斗のご両親が、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に、とても幸せそうに笑っていた。

「おじいちゃん、海斗のご両親は……」

「ああ」おじいちゃんの目に一瞬、悲しみの色がよぎった。「あいつらは早く逝ってしまったからなあ。だが、今頃きっと、どこかでお前たち二人が一緒になったことを喜んでくれているはずだ」

「そうよ」おばあちゃんが言葉を継ぐ。「海斗は小さい頃から私たちが育ててきた、息子同然の子なんだ。その海斗が、こんなに素敵な子を見つけてきてくれて、私たちは本当に嬉しいんだよ」

海斗が私の手を握りしめた。「伊佐子、君は僕が今まで会った中で一番優しい子だ。おばあちゃんたちの言う通りだよ。もし母さんたちがまだ生きていたら、絶対に君のことを大好きになったはずだ」

「あっ!」おばあちゃんの目が急に輝いた。「二人は結婚式の日取りは決めたのかい? 私たちはもう年だからね、早く二人の幸せな姿が見たいんだよ。できれば、ひ孫の顔もね」

その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられ、息が苦しくなった。

「私……お手洗いに」私は慌てて立ち上がり、食卓から逃げるようにその場を離れた。

洗面所で、私は洗面台にすがりつき、鏡に映る青白い自分の顔を見つめた。

どうして言えるだろう。私が法的にはもう母親なのだと。どうして海斗に告げられるだろう。彼が私たちの子供の夢を語っているその時に、私がすでに四歳になる女の子を養っているなんて。

私は冷たい水を顔にかけ、なんとか平静を装おうとした。

食卓に戻ると、海斗がおばあちゃんたちに未来の計画を語っているところだった。

「会社の二階にあるオフィスを子供部屋に改造したいんだ。一番日当たりがいいから。それから、裏庭にブランコを作ろう。子供たちがきっと喜ぶよ」

「まあ、素敵ねえ」おばあちゃんは満面の笑みだ。「伊佐子ちゃんはどう思う?」

全員の視線が私に集まる。私は無理に微笑んだ。「……素晴らしいと思います」

「どうしてそんなに顔色が悪いの?」海斗が心配そうに私の額に触れる。「気分でも悪いの?」

「大丈夫。少し疲れただけかも……」

「じゃあ、今日は早めに帰ろう」彼はすぐに立ち上がった。「おばあちゃん、今日はこの辺で。伊佐子は休ませないと」

「そうしなさい、そうしなさい。若いんだから無理は禁物よ」おばあちゃんは心配そうに私を見る。「次にくるときは、おばあちゃんが体にいいスープを作ってあげるからね」

街へ戻る車の中は、静かだった。海斗はバックミラー越しに何度も私を窺い、その目は心配で満ちていた。

私はシートに深くもたれかかり、目を閉じて混乱した思考を整理しようとした。その時、突然携帯が鳴った。

発信者表示は【彩音】

私は凍りついた。彩音が電話してくるなんて、よほどのことがない限り……

『ママ!』春奈の澄んだ、幼い声が突然電話口から響いた。『ママ、どうしてまだ帰ってこないの? 絵を描いたんだよ、ママに見せたいの! ママと私、一緒にいて、幸せなの!』

私の手は激しく震え、携帯を落としそうになった。

海斗が私の反応を見て、眉をひそめる。

「私……」私はまだ震える手で、必死に電話を切った。

「伊佐子」海斗は車を路肩に寄せ、私の方に向き直った。「今、あの子は君を何て呼んだ? 『ママ』って呼んだように聞こえたんだけど」

私の頭は真っ白になり、心臓が胸から飛び出しそうなくらい激しく鼓動した。

「あなた……聞き間違えたのよ」私は声が普通に聞こえるように努めた。「『おばちゃん』って言ったのよ。母の隣人の子で、うちととても親しいの」

「本当に?」海斗の目に、一瞬疑いの光がよぎった。

息が詰まりそうだった。三年間、注意深く隠してきた秘密が、もう少しで暴かれるところだった。

「海斗、私、すごく疲れたの。先に家に帰れないかな」私はわざと弱々しいふりをした。「少しめまいがするの」

彼はすぐに追及をやめ、優しく私の頭に触れた。「わかった、家に帰ろう。ゆっくり休んで。何か辛いことがあったら、僕に言うんだよ」

私はシートにもたれて目を閉じたが、頭の中では春奈の「ママ」という声だけが響いていた。

その声はあまりにクリアで、あまりにリアルで、私が必死に築き上げてきた幸せな生活を、いつ何時でも破壊しかねない爆弾のようだった。

車が夜の闇を走り抜ける中、私は拳を握りしめ、爪が手のひらに深く食い込んだ。

どうすればいい? 本当に、このまま永遠に隠し通せるのだろうか。

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