第35章

「藤堂さん、また会いましたね」

聞き覚えのある声に、藤堂光瑠は顔を上げた。

個室の主席に薄井宴が座り、軽蔑したような眼差しを彼女に向けているのが見えた。

指には煙草が挟まれ、立ち上る煙の中、薄井宴の冷厳な顔にはいかなる感情の揺らぎも見て取れない。

藤堂光瑠は驚愕した。どうしてまたこの人に会うの!

どうやら、この人に会うたびにろくなことがない!

藤堂光瑠はふいに少し腹立たしげに息を吐いた。この男は、自分の疫病神かなにかなのだろうか。

薄井宴は煙の輪を一つ吐き出した。彼もまた、藤堂光瑠の姿を見て意外に思っていた。

どういうわけか、外へ出るたびに彼女に遭遇する。

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