第53章:制御不能

私は冷たいレンガの壁に、さらに強く背中を押し付けた。「何が望みか知らないけど、でも――」

男の動きは予想以上に速かった。右の拳が空を切り裂き、私の顔へと迫る。

とっさに頭を横に振る。数秒前まで私の鼻があった場所を、男の拳がこすり、壁を削った。考えるよりも先に、私は膝を男の腹部へと突き上げた。

男は身をひねり、前腕でその一撃を受け止める。衝撃で二歩ほどよろめいたが、すぐに体勢を立て直した。

心臓が肋骨を叩くように激しく脈打つ。こいつは、ただ絡んできただけの酔っ払いじゃない。動きがあまりにも統制され、正確すぎる。

男が再び襲いかかってくる。伸びてきた腕の下をくぐり抜け、鳩尾を狙って拳を突...

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