第86話私のひざの上に座って

俺は彼女に向かって瞬きをした。「え?」

「地下牢でのあの一ヶ月……」彼女の声が震える。「苦しかった? 怪我はしなかったの?」

質問は矢継ぎ早に飛んできた。その一つひとつに、深い心配が滲んでいる。「誰か世話をしてくれたの? 食事はちゃんと摂れていたの?」

「毛布はあった? 寒くなかった? ずっと一人きりだったの?」

俺は彼女を見つめたまま、事態を飲み込もうと必死に頭を働かせた。「セーブル、それは――」

「あんな恐ろしい場所にあなたが閉じ込められていたと思うと……」涙がさらに溢れ落ちる。「全部、私を守るためだったのに」

彼女は怖がっているわけでも、逃げ出そうとしているわけでもなかった。...

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