第105章

 マーサが載せたトレイを持つ手が、かすかに震えた。

 セレステの、澄んでいるのにどこか焦点の合わない瞳を見つめ、彼女は口を開きかける。けれど、喉元まで出かかった言葉は、どうしても声にならなかった。

 馬鹿じゃない。

 楓葉館で働くようになってもう何年にもなるとはいえ、ルシアンと奥様が以前、あのマンションでどんな日々を送っていたのか、詳しく知っているわけではない。

 それでも、このところ起きた出来事の数々と、ふと耳にした断片的な会話をつなぎ合わせれば、この五年間、セレステがどんな地獄を生きてきたのか、おおよその想像はついてしまう。

 冷たさ。無視。おそらくは、人として扱われないような...

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