第116章

 彼女はそこでいったん言葉を切り、声色をさらにねっとりと歪ませた。

「それにね、ルシアン。どうしてそこまで確信できるわけ? あの女が本当に全部忘れてるって。もし……最初から芝居だったとしたら? 記憶喪失のふりをして、哀れな女を演じて、あなたの同情を引き出して、警戒心を緩めさせて……その隙を狙って、あなたの元から完全に逃げ出そうとしてるとしたら? だってあなた、あの女を五年もいたぶって、骨の髄まで憎んできた男なのよ?」

 ルシアンはイザベラを射抜くように睨みつけ、考えるより早く、氷のような声で吐き捨てた。

「彼女は嘘なんかつかない」

 その言葉がこぼれた瞬間、固まったのはイザベラだけで...

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