第103章

菊地美波の一件を片づけたあと、菊地杏奈は自分の力を、二つのことに注ぎ込んだ。

ひとつはオーロラアトリエの秋の新作発表会の準備。もうひとつは――母の死因の調査。

母の残した日記は、何十回も読み返した。

桜井晴子の日記帳は分厚くない。くたびれた牛革紙の表紙で、開くたびに、紙が湿気を含んだ匂いがした。まるで涙に浸されたまま乾いたみたいな、そんな匂い。

中の文字は、細くて整っていて、彼女の最期の二年間の「ふつうの毎日」が淡々と積み重ねられていた。

杏奈の胸をいちばん容赦なく引き裂いたのは、次の一節だった。

『今日は杏奈を連れて公園へ凧揚げに行った。汗だくで走り回って、目を細めて笑っていた...

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