第105章

スキャンダルが噴き出してから三日目。葉山陸斗が、菊地杏奈のアトリエに姿を現した。

その日、杏奈は来月分のデザインラフを引いていた。夏川結衣がノックして入ってきて、「葉山社長がお見えです」と告げた瞬間、杏奈の鉛筆がふっと止まり、紙の上に淡い黒点が落ちた。

「通して」

葉山陸斗が入ってきたとき、杏奈は顔を上げて一度だけ彼を見た。少し痩せた。目の下にうっすら青みが差し、スーツは相変わらず隙なく整っているのに、全身から張り詰めた刃が抜けたみたいで――以前の鋭さが、どこか欠けている。

彼は杏奈の向かいに腰を下ろし、しばらく沈黙してから言った。

「離婚協議書……署名した」

杏奈は鉛筆を置き、...

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