第138章

  ようやく、眼鏡の男が車に乗り込んだ。

  エンジンがかかり、車が動き出して、完全に視界から消えるまで。たった一分もないはずなのに、秒針がやけに遅い。まるで一年みたいだった。

  そのとき、鈴木結月の耳に、岡本恵茉の声が落ちてきた。

「……行った?」

「うん。行ったよ」

  結月は、ベンツが車の流れに溶けていき、やがて夜の闇に吸い込まれるのを見送った。

  次の瞬間、隣から堪えきれない嗚咽が漏れて、結月の意識が現実に引き戻される。

  恵茉は、もう言葉にならないほど泣いていた。

「ちょ、ちょっと……待って。やだ、なんで泣くの」

「……つらいの。ほんと、つらくて……自分がバ...

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