第31章

けれど高橋悠人は、黙ったまま彼女を見つめ続けた。まるで何かに惑わされたみたいに、視線はまず鈴木結月の指先へ落ちる。すると、昼間の一幕がふいに脳裏で蘇った。

そよ風が彼の横をすり抜けた瞬間、目の前の少女は頬を赤く染めていた。

高橋悠人はその頬から目を逸らせない。遠慮というものがどこかへ消えたみたいで、胸の奥がざわざわと波立つ。近づきたい。彼女の身にまとった、淡くて甘い、やわらかな匂いをもう一度確かめたい。そして、また触れたい。

肌が触れ合う感覚は毒だ。一度口にしたら、もうやめられない。

さっきまで必死に抑えていた。近づきすぎて怯えさせたくなかったからだ。彼女は子ギツネみたいに警戒心が強...

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