第50章

鈴木結月が深く息を吸い、口を開こうとした、そのときだった。個室の扉が、こつん、と控えめに叩かれた。音は大きくない。なのに結月は、全身の産毛が一斉に逆立つのを感じた。

 直後、外の誰かがくすりと笑った。わざとらしく作った、妙にねじれた笑い声。

 不気味で、ぞっとする。

 張り詰めた心が耐えきれず、結月は思わず悲鳴を上げた。

 悲鳴を聞いた相手は、満足したみたいにくるりと身を翻し、そのまま走り去った。足音がトイレの外へ遠ざかってから、結月はようやく手を伸ばし、個室の扉を開ける。

 外へ出た瞬間、脚がふにゃりと力を失った。

 さっきまで必死に平静を装っていたのに、今は壁に手をつきながら...

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