第59章

スマホ画面に表示された番号を見た瞬間、高橋悠人は目を細めた。だが通話ボタンは押さない。ただ、ぶるぶると震え続ける端末を放っておく。

 登録なんて一度もしていない。それでも、この番号だけは忘れたことがない。

 浅子からだ。

 高橋紀明の妻。

 悠人にとって浅子は、最初から最後までその肩書きでしかなかった。高橋紀明がいるから同じ屋根の下にいるだけで、彼女と心を通わせる理由などどこにもない。

 それに、高校へ上がってからは家に住むこと自体を嫌がった。

 高橋爺さんは本気で悠人を可愛がっていて、反対どころか、気前よくこの辺りの部屋を一つ与えた。広さは一六〇平方メートル。豪邸というほどでは...

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