第85章

  まだ姿も見えていないのに、胸の奥が理由もなく浮き立っていた。

  隣の席に座るのが――あの人だと思うだけで、どうしようもなく嬉しくなる。

  鈴木結月がぼんやりと顔を横に向けた瞬間、コツン、と机を叩く乾いた音がして我に返った。振り向くと、通路に高橋悠人が立っている。黒いバッグを片肩に引っかけ、気だるげな立ち姿。

  結月は目を瞬いた。まさか、この人がこんなに早く学校に来るなんて。

  普段の高橋悠人は、チャイムと同時に教室へ滑り込むタイプだ。早すぎもしない、遅すぎもしない。絶妙に「一秒も損しない」番長。なのに今の教室は、まだ半分も席が埋まっていない。

  「どうしてこんなに早い...

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