第87章

  高橋悠人がもう一度ノートをすっと押し返してきて、鈴木結月は視線を落とした。そこには、彼の字。

  【別に】

  この一言だけなら、本当に怒ってないのかも、とも思えた。けれど次の行を見た瞬間、結月は思わずくすっと笑ってしまう。

  【前にもこういうの、もらったことあんの?】

  どうやら高橋は「ラブレター」の五文字すら書くのが面倒らしい。

  結月はノートに短く書き返した。

  【あるよ】

  隠すようなことでもない。ペンを握ったまま続きを書こうとして、ふと止まる。――もらった手紙は、一通も開けたことがない。読んだこともない。

  そのとき、教壇の物理教師が教室をぐるりと見...

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