第4章

沙良視点

夜の帳が下りた夜市バー。北原で最も豪華なその酒場は、ネオンの光に照らされていた。

ぴっちりとした黒いドレスに身を包んだ私が颯爽と店に足を踏み入れたのには、明確な目的があった。今日一日、私を避け続けていたあの馬鹿を見つけ出すことだ。

「沙良?」嬉しそうな声がした。「あんたがこんな所にいるなんて、どうしたの?」

振り返った私の目に飛び込んできたのは、親友の神崎茜だった。背中が大胆に開いた真紅のドレスは、彼女の完璧なボディラインを惜しげもなく露呈させ、まるで第二の皮膚のように吸い付いていた。陽光を浴びたシルクのようなブロンドの髪は、肩を滑り落ちる滝のように輝き、その一挙手一投足が、店中の男たちの視線を磁石のように引き寄せていた。

「茜? あなたも来てたの?」

「当たり前でしょ、今夜の獲物を探しに来たんだから」茜は悪戯っぽく笑い、私の腕に自分の腕を絡めた。「でも、謎なのはあんたの方よ。今頃、家で結婚式の準備でもしてるべきじゃない?」

「あのクソみたいな結婚式の話はしないで」私はうんざりして目を眇めた。

「あら……」茜は意味ありげに声を伸ばした。「当ててあげようか、特別な誰かさんに会いに来たんでしょ? 例えば……あなたをこんなに夢中にさせてる、とある殿方とか?」

「気のせいよ」

「よく言うわ。その格好、完全に『私を捕まえて』って叫んでるじゃない。そんなセクシーな格好、ただ飲みに来ただけってわけじゃないでしょ。さあ、白状しなさいよ、誰なの?」

私の視線は、無意識のうちに店の隅へと吸い寄せられた。心臓が途端に跳ね上がる。

和也がそこに立っていた。黒い警備員の制服が、彼のがっしりとした体格にぴったりとフィットし、広い肩幅と引き締まった腰を完璧に強調している。

「マジか……」私の視線を追った茜が息を呑んだ。「あの警備員? ヤバい、あの身体、あの顔――歩くセックスじゃない!」

「うるさいよ」私の顔に熱が集まる。

「待って、待って、もうちょっとよく見せて……」茜は目を細めた。「ちょっと、あれってあなたを助けたっていう男でしょ? 最近あんたが上の空だったわけだわ」

「そんなこと……」

「あなたねえ、おでこに『抱かれたい』って刺青でも入れてるようなもんよ」茜は容赦なくからかった。「でも真面目な話、あのレベルの男なら……危険を冒す価値は十分にあるわね」

私は彼女を睨みつけた。「たまにはまともなこと言えないの?」

「まともなこと言ってるじゃない」茜はにやりと笑った。「私の専門的な見地から言うと、ああいう男はベッドの中じゃ絶対に最高よ……」

「おい!!!」

「はいはい。でも認めなさいよ、想像するだけで熱くなるでしょ?」

* * *

私たちはシャンパンを片手にVIP席に落ち着いたが、私の意識は和也に釘付けだった。

彼は私の視線に気づいたようだった。ちらりとこちらに目を向けたが、私だと分かると、全身が目に見えて強張り、すぐに視線を逸らした。

「避けられてるわね」茜が鋭く指摘した。「つまり、彼は間違いなくあなたに気があるってこと。男ってのは、自分をコントロールできなくさせる女からしか逃げないものよ」

その時、バーの向こう側で騒ぎが起こった。

朗が数人の友人を引き連れて現れた。私が心底嫌悪する、あの完璧な笑顔を浮かべて。

「沙良、こんな所で何してるんだい?」朗は断りもなく私の隣に腰を下ろした。「教えてくれればよかったのに――心配したんだぞ」

「友達と飲んでるだけよ。あなたに報告する義務はないわ」私は冷たく言い放った。

「もちろん、君の自由はいつでも尊重するさ」朗はわざと大きな声で話しながら、笑みを深めた。「だが婚約者として、やはり心配になる。こういう場所は……色々な輩が集まるからな」

彼の視線は、意図的に和也の方へと向けられた。

遠くで和也が拳を握りしめ、顎を食いしばっているのが見えた。

「沙良」朗は突然ぐっと顔を近づけてきた。声は優しいが、その目は危険な光を宿している。「今夜は家に帰って、ちゃんと話をしようじゃないか。結婚式のこと……それから、他の色々なことについてもね」

彼の手が、私の背中をいやらしく這い始めた。

「朗……」私は彼を押し返そうとした。

「照れるなよ、沙良」彼の唇が、突然私の首筋に触れた。「どうせもうすぐ結婚する仲じゃないか」

平手打ちを食らわせてやりたかったが、和也の顔が青ざめ、両手を固く握りしめて、明らかに自制心と戦っているのが目に入った。

悪戯な考えが閃いた。この馬鹿が私から逃げ続けるなら、少し嫉妬させれば目が覚めるかもしれない!

私は朗を突き放す代わりに、協力的にもたれかかった。

「そうね」私はわざと大きな声で言った。「どうせもうすぐ結婚するんだし……」

和也の表情がさらに険しくなり、彼は背を向けてその場を去ろうとした。

「ちょっと風に当たってくる」私は立ち上がった。

「僕も一緒に行こう」朗が腰を上げかけた。

「いいえ、一人になりたいの」私は彼を制した。「すぐ戻るから」

* * *

バーの裏路地で、和也は壁に寄りかかって煙草を吸っていた。

薄暗い街灯が、彼の横顔に曖昧な影を落としていた。その輪郭は鋭く、しかしどこか遠い目をした瞳には、拭いきれない憂いが宿っている。彼は慣れた手つきで一本、また一本とタバコを唇に挟み、吐き出された白い煙は、冷たい夜風に弄ばれるように、あっけなく闇へと溶けていった。

「タバコは身体に悪いわよ」私は彼に近づいた。

私に気づくと、和也の表情はさらに冷たくなり、吸っていたタバコを揉み消して立ち去ろうとした。

「待って」私は彼の行く手を遮った。

「どけ」彼の声は氷のように冷たかった。

「嫌よ」私は腕を組んだ。「話があるの」

「話すことなどない」彼は私を避けようとする。「お前には婚約者がいる。俺みたいな下衆は必要ないだろう」

「下衆? 誰がそんなこと言ったの?」

「現実だ」彼は鼻で笑った。「さっきの店での光景で、まだ分からなかったか? お前たちお似合いのカップルは……反吐が出るほどお熱かったぜ」

最後の言葉は、食いしばった歯の間から絞り出されたものだった。

満足感が込み上げてくる。この馬鹿!本気で嫉妬してる!

「反吐が出る?」私はわざと挑発するように言った。「どうして? 私たち、お似合いだって言ったじゃない」

「好きに思ってろ」彼は背を向けた。「どうせ俺には関係ないことだ」

その時、バーから朗の声が響いた。「沙良? どこにいるんだ?」

和也の顔色が変わる。足が、ぴたりと止まった。

私は、とびきり意地悪な考えを思いつき、大声で呼び返した。「ここにいるわ!」

そして、悪意に満ちた喜びを浮かべて和也に向き直った。「知ってる? 朗が今夜、『話』をしたいって。ただ話すだけじゃないみたいだけど……」

和也の顔が憤怒に染まる。「お前……」

「そうよ、もうすぐ結婚するんだから」私は彼を煽り続けた。「婚約者同士、親密になるのは当たり前でしょ? 今夜あたり、私たちは……」

「もういい!」和也は爆発し、私の手首を掴んだ。

「沙良? 外にいるのか?」朗の声が近づいてくる。

和也の目に狂気が閃いた。彼は私を路地の突き当たりにある従業員休憩室へと引きずっていった。

「何するの......」

彼はドアを蹴破るように開け、私を中に引きずり込み、乱暴に閉めて鍵をかけた。

使い古されたソファとロッカーしかない狭い空間で、私たちは互いに押し付け合うように立たされる。空気は一瞬で緊張に満ちた。

「さあ……」彼の声は低く、危険な響きを帯びていた。嫉妬の炎がその目に燃えている。「今夜、彼と何をするつもりなのか、もう一度言ってみろ」

彼が理性を失っていくのを見て、私の内側で悪魔的な喜びが湧き上がった。

やっと……この野獣を挑発することに成功した。最高!

「どうしてあなたに言わなきゃいけないの?」私は挑戦的に言った。「あなたには関係ないって言ったじゃない」

「クソッ……」彼は私を壁に叩きつけた。彼の熱い息が私の顔にかかる。「自分が何をしてるか分かってるのか?」

「ええ、完璧に」私はつま先立ちになり、唇が触れ合いそうなほど彼に近づいた。「問題は……あなたがどうするかってことよ?」

次の瞬間、彼は完全に切れた。

和也の口が私の口に激しく落ちてきた。彼の嫉妬、怒り、そして欲望のすべてが、そのキスの中で爆発する。

私は熱心に応え、彼の首に腕を回した。これこそ私が望んでいたこと――彼にすべての理性を失わせること。

彼の手が私の身体を荒々しく彷徨い、腰から尻へと滑り、強く揉みしだいた。思わず喘ぎ声が漏れる。身体が一瞬で敏感になった。

「お前は俺のもんだ……」彼は私の唇にそう唸った。「他の誰にも……」

彼の手が薄い布地の上から私の胸を見つけ、揉みしだく。私の身体は即座に反応し、熱が脚の間に集まり、欲望が津波のように押し寄せてきた。

「ああ、和也……」私は喘いだ。

彼の指はさらに大胆になり、私のスカートをたくし上げ、燃えるような手のひらが内腿に触れた。私の脚は本能的にわずかに開き、身体は彼の腕の中で完全に溶けていく。

「クソッ!」彼の指が、私の最も敏感な場所に触れた。「こんなに濡れて……」

私は恥ずかしさで目を閉じたが、身体は正直に彼の愛撫を歓迎していた。

すべてが制御不能に陥りかけたその時、外から驚いたような声が聞こえた。

「うわっ! 誰か中にいるぞ!」バーの従業員が叫んだ。「村上さん、休憩室、誰か使ってます!」

和也は瞬時に我に返り、私を解放した。私たちは二人とも息を切らし、服は乱れ、顔は紅潮していた。

「お、俺は行かなきゃ」彼は服を直し、私の目を見ることができない。

「和也……」

「今夜は何もなかった」彼は苦しげに目を閉じた。「全部、忘れろ」

そう言って、彼は休憩室から駆け出していった。

壁に背を預けたまま、私はまだ身体の奥底で、先ほどの密会の甘美な震えを感じていた。熱を帯びた肌に、ひんやりとした壁の感触が心地よい。自然と、満足げな、いや、むしろ蠱惑的な笑みが唇に浮かび上がる。

嫉妬……なんて、ゾクゾクするほど面白い触媒なのかしら。

前のチャプター
次のチャプター