第4章「同意しても拒否の儀式は起こる」
ドリアン視点
机の前に立ち尽くすライラを見つめた。その顔色は月光のように蒼白だった。これからしようとしていることの重みが胸を圧迫したが、俺は躊躇いを無慈悲に押し殺した。彼女は俺を裏切り、妊娠を捏造して俺たちの絆を利用しようとしたのだ。許しがたいことだ。
『残酷すぎるぞ』俺の中の狼が奥底で低い唸り声を上げた。『彼女はまだ俺たちの番(つがい)だ』
「そう長くは続かない」俺は呟いた。
「拒絶の儀式だけが、俺たちの関係をきれいに終わらせる唯一の方法だ」と俺は言った。
その古の儀式は、四年近く共有してきた「刻印」を引き裂くことになるだろう。言い出した俺自身でさえ、魂を爪で引き裂かれるような断絶の痛みを感じることになるはずだ。だが、セラフィナと完全に結ばれる自由を得るには、それしか道はない。
『あの女は真の番じゃない』狼が牙を剥く。『ライラには俺たちの刻印がある。俺たちの匂いが染みついている。四年の歳月が……』
俺は言った。「試用期間は相性を確かめるためのものだった。俺たちが失敗したことは、互いによく分かっているはずだ」
ライラはようやく同意するように頷いた。
続けようと口を開いた瞬間、電話が鳴り響き、俺たちは二人とも驚いた。母の名前が表示されているのを見て眉をひそめたが、電話に出た。
「ドリアン」母クララの声が響く。威厳があり、切迫していた。「明日の夜の満月祭の準備は万端? 表彰者は全員出席確認できているの?」
「すべて計画通りに進んでいます、母さん」
「結構。いいこと、今回の満月祭は極めて重要なの。例年とは違うわ。パックで最も優秀な学生たちを表彰するのよ。財団の最有望株としてライラも含まれているわ。これで皆の士気も上がるでしょう」
俺の視線は、涙を拭っているライラに移った。「ああ、彼女もリストに入っています」
「素晴らしいわ。二人共に会えるのを楽しみにしているわよ。私たちは団結した姿を見せなければならないの、次期アルファ継承の前だからこそ特にね。忘れないで、ドリアン。あなたはもうすぐアルファになるのよ」
通話を終え、立ち去ろうとするライラを見て、俺の中で一つの決断が下された。怒りはあったが、家族の利益が最優先だ。
「待て」俺は命じた。「拒絶の儀式は式典の後まで延期する。お前も準備をしておけ」
ライラが振り返った。目は腫れ上がっている。「何の準備?」
「明日の夜の式典だ。お前も出席しろ。俺の番としてな」
彼女の瞳に驚きが走り、続いて怒りの火花が散った。「冗談でしょ? 私を非難して、辱めて、拒絶の儀式で脅しておいて? それでもまだ、幸せな番のふりをしろと言うの?」
『怒るのも当然だ』狼が言った。『俺たちが彼女を傷つけたんだ』
俺は内なる動揺を押し殺した。「これは頼んでいるんじゃない、ライラ。命令だ。満月祭は一族にとって極めて重要なんだ。お前にはそこで、自分の役割を演じてもらう必要がある」
「いいえ」彼女はきっぱりと言った。「断るわ。セラフィナに頼めばいいじゃない。彼女こそ、あなたが本当に望んでいる番なんでしょ」
セラフィナの名が出た瞬間、俺の怒りに火がついた。俺は一歩踏み出し、彼女を見下ろすように立ちはだかった。「お前に拒否権はない。自分の立場をわきまえろ、ライラ。四年以上もの間、俺の家族の資産と庇護を享受してきたんだ。今こそ、その恩を返す時だ」
彼女は言った。「自分の立場なら、はっきりと覚えているわよ、ドリアン。最初から、あなたは私に思い知らせてきたじゃない。私はただの『取引』であり、『取り決め』であり、あなたの一族が影響力を拡大するための『道具』に過ぎないんだって」
『彼女の言う通りだ』俺の中の狼が唸った。『だが、それだけの存在じゃない』
その声を無視し、俺は冷ややかに言い放った。「そこまで理解しているなら、どうすべきかも分かっているはずだ。明日の六時、俺が買い与えた青いドレスを着ろ。それまではここに居ても構わない。式典が終われば、すぐに『拒絶の儀式』を執り行う」
反論の隙を与えぬよう、俺は背を向けた。孤独が必要だった。感情と、そして狼を制御するために。
俺しか立ち入ることのできない個室に入ると、特製の液体の入った小瓶を取り出し、一気に煽った。苦い液体が喉を滑り落ち、一時的な安らぎをもたらしてくれる。
地下ガレージへ向かう途中、セラフィナからメッセージが届いた。『今夜はどうだった? うまくいったことを祈ってるわ。薬を飲むのを忘れないでね。あなたのことが心配なの』
返信はしなかったが、その文面はセラフィナがいかに俺を理解してくれているかを思い出させてくれた。俺の「症状」を知っているのは彼女だけだ。それでもなお、彼女は俺の傍にいることを選んでくれたのだ。
翌日の夕方、俺は霧に包まれたムーン・シャドウ・ベイの通りを車で走っていた。心は明日の式典と、その後に続く出来事の重圧で沈んでいた。アルファにとって、拒絶の儀式は軽々しく行えるものではない。それは互いの狼に消えない傷跡を残し、二人が築き上げたものを二度と取り戻せなくするほどの、完全なる断絶を意味する。
『本当にこれでいいのか?』狼が静かに問いかけてくる。『四年間にわたって分かち合った刻印、領土、そして人生……すべてを一回の儀式で破壊してしまうのか』
「必要なことだ」俺は答えた。「セラフィナこそが真の運命の番だ。ライラとの関係は、最初から造り物に過ぎなかった」
ブラックソーン邸に着いた頃には、すでに一族の正餐会が始まっていた。親族たちの高級車が並ぶ列に自分の車を滑り込ませ、ネクタイを直してから中へと足を踏み入れる。
先祖代々の屋敷で開かれる集まりは、いつものように張り詰めた空気が漂い、堅苦しいものだった。母は俺の姿を認めるなり、脇へ引っ張っていった。
「ドリアン」母の声は低く、切羽詰まっていた。「もう四年も経つのよ! どうしてまだ狼の子(パップ)の顔が見られないの? アルファの血統に問題でもあるというの?」
俺は体を強張らせ、奥歯を噛み締めた。「母上、私の私生活は議論の場にふさわしくありません」
「ただの私生活の問題ではないわ、ドリアン。これは一族の未来に関わることなのよ。あなたは次期アルファなのだから、その血が強固であることを証明しなければならないわ。もしライラとの婚姻で結果が出ないのなら、他の選択肢を検討する潮時かもしれないわね」
俺は顔を背け、これ以上会話を続けることを拒んだ。だが認めざるを得ないこともある。ライラから妊娠を告げられた時、一瞬ではあるが、俺は希望と期待を抱いてしまったのだ。小さな命、俺たちの子ども。それが、この政略的な結合に新たな意味をもたらしてくれるかもしれないと想像した。しかし今となっては、それも虚無へと消えた幻想に過ぎない。
携帯が再び震えた。またしてもセラフィナからだ。『辛そうな顔をしてる。私に何かできることはある? いつでも私がついていることを忘れないで』
俺はそのメッセージを見つめ、思考を彷徨わせた。やはりセラフィナこそが、俺の運命の相手なのだ。拒絶の儀式の後、彼女と正式な真の結合を行うことになる。ライラとのこの仕組まれた絆から解放されさえすれば、未来はまだ楽しみにする価値があるはずだ。そうだろう?
