第57話全部嘘だった

ドリアン視点

「俺のスマホだ」俺はジャケットをまさぐりながら言った。「一体どこへやったんだ?」

「ドリアン様?」マーカスは困惑した表情を浮かべた。「つい先ほどまでお持ちでしたが」

俺は来た道を戻りながら確認した。会議テーブル、窓枠、ブリーフケース。何もない。まるで煙のように消え失せていた。

「ドリアン?」

振り返ると、セラフィナが近づいてくるところだった。手入れの行き届いた指先が、俺の探していたスマホを優雅につまんでいた。

「VIPラウンジに忘れていましたよ」彼女はそう言って、俺の手のひらに端末を押し付けた。「スピーチの原稿を見直している時に気がついたの」

「ありがとう」と俺は言...

ログインして続きを読む