第38章

花村家の書斎で、花村尚希はデスクに向かっていた。明日使用する契約書が広げられているのに、視線はずっとスマホの画面に縛りつけられたままだ。

画面が点いた瞬間、反射みたいに手が伸びる。表示されたのは黒田理沙からの返信――たった数文字。

尚希はその文字列をじっと見つめ、口元がじわじわと持ち上がっていく。抑えようとしても、抑えきれない。

何文字か打っては消し、また打っては消す。

送りたい。もう少しだけ、何かを。

けれど、邪魔になったら嫌だ。

スマホを手の中でくるくると弄び、画面は点いては暗くなり、暗くなってはまた点く。まるで熱い芋でも握っているみたいに、放したくないくせに、持ち方が分から...

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