第1章 OLのキャンパス体験を越える
眩しいほどの陽光の中、私は目を覚ました。
ひどい頭痛がする。まるで二日酔いの朝のようだ。必死に目を開けると、目に映ったのは見慣れた六畳一間のアパートではなく、息が詰まるほどファンシーなピンク色の部屋だった。
レースのカーテン、クリスタルのシャンデリア、壁一面のブランドバッグ、そしてベッドの脇に積まれた高価なぬいぐるみ――これらを全部合わせれば、私のような社畜が十年飲まず食わずで働いてやっと稼げるくらいの価値になるだろう。
一体どういう状況?
身を起こし、無意識にベッドサイドテーブルへ携帯を探して手を伸ばしたが、触れたのは精巧な化粧鏡だった。鏡に映った顔を見て、私は完全に固まってしまった――それは十七歳の少女の顔。剝きたての卵のように白く滑らかで、指でつまめば水が滴りそうなほど瑞々しい肌。
この顔には見覚えがある。ありすぎるくらいに。
神崎知恵。前世の私、十七歳の頃の姿だ。
「ありえない……」
私は自分の頬に手を触れる。その感触は恐ろしいほどリアルだった。これは夢じゃない。本当に十七歳に戻ってきたんだ!
携帯の画面にはこう表示されていた――二〇二四年四月八日、午前七時三十分。
桜丘高校の入学式当日。
前世の記憶が津波のように押し寄せる――父の会社は取引先に嵌められて倒産し、婚約者の周防秀利は会社のインサイダー情報を売った罪で刑務所行き。私は何不自由ないお嬢様から一夜にして莫大な借金を背負うどん底の少女に転落した。借金を返すため、ライブ配信者になり、気色の悪い視聴者たちに散々嬲られた。
そんな最も暗い時期に現れたのが、池田究だった。
彼は天から舞い降りた救世主のように父の会社を買収し、私との結婚を申し出た。三年の結婚生活で、彼は表向きはよそよそしく冷淡だったけれど、実際は骨の髄まで私を甘やかしてくれた。なのにこの馬鹿な私は、彼が末期の胃癌で病床に伏すまで、その日記に綴られた熱烈で卑屈なほどの愛情に気づかなかった――
『もし来世があるなら、もっと早く彼女に出会いたい』
涙が瞬時に溢れ出た。池田、私の池田。彼はあんなにも長い間私を愛してくれていたのに、私は彼に相応しい応えを一度も返せなかった。すべてを理解した時には、彼はもう永遠に私のもとを去ってしまっていた。
「お嬢様、運転手はすでに下でお待ちです」
メイドがドアをノックする音で、私の回想は中断された。
そうだ、今日は入学式だ。前世の記憶通りなら、私は校門であの池田究に会うはず。
今度こそ、絶対に逃さない!
「今度は……父さんの会社は倒産しないし、秀利がインサイダー情報を売る機会なんて与えない! 池田も死なせたりしない」
私は拳を握りしめ、鏡の中の自分に誓った。
「前世の苦しみは全部、この人生で書き換えてみせる!」
ロールスロイスが桜丘高校の校門に静かに停まると、多くの生徒がこちらに目を向けた。私が車を降りた瞬間、ある長身の影にすべての注意を奪われた。
池田究――身長一八六センチ。安物の白Tシャツとジーンズを着ていても、その完璧なスタイルの良さは隠しきれない。彼は校門の隅でたこ焼きの屋台を出し、洗い晒して白くなったエプロンを締め、真剣な顔でたこ焼きを焼いていた。
なんてこと。この腰のライン、この腕の筋。まさに歩くホルモンじゃない!
前世のスーツを着こなした成功した企業家のイメージとは全く違う、今の池田には貧しい学生ならではの若々しさがある。それでも、その整った顔立ちは一目で人を虜にする――涼やかな眉と星のような瞳、すっと通った鼻筋、そして少し冷淡そうに引き結ばれた薄い唇。
私はまるで何かの力に突き動かされるように、彼の屋台へと向かっていた。近づくにつれて、心臓が激しく脈打つ。
「店長さん~」
私はとびきり甘い声で挨拶した。
池田が顔を上げる。その深い瞳が私を捉えた瞬間、私は呼吸を忘れそうになった。
近すぎる。この距離だと彼のまつ毛まではっきりと見える。ありえないくらい長い。
「小サイズは三百円、大サイズは五百円です」
彼の声は低かったが、その口調はロボットのように機械的だった。
前世のあの優しい感じは微塵もない。今の池田は眼差しが冷たく、全身で『他所者は近づくな』と語っている。
でも、知っている。この無愛想な仮面の下には、誰よりも優しい心が隠されていることを。
「店長さん、そんなにイケメンなのに、どうしてたこ焼きを売ってるの?」
私は周りに集まり始めた野次馬を完全に無視して、わざとからかうように言った。
池田の手がわずかに止まり、耳の付け根が少し赤くなる。
「神崎さん、ご注文をどうぞ」
おや、私の名前を知ってるんだ。どうやら十七歳の池田でも、神崎家のお嬢様のことは知っているらしい。
「たこ焼きは要らない」
私は単刀直入に切り出した。
「あなたのLINEが欲しい」
周りが一瞬にして静まり返った。
池田の顔が曇る。
「神崎さん、ここはあなたの遊び場じゃありません!」
「遊んでなんかないわ、本気よ」
私は彼の目を誠実に見て言った。
「LINEはいくら? イケメンとおしゃべりしたいんだけど」
ぷっ――
周りの生徒たちから忍び笑いが漏れた。誰かが小声で話しているのが聞こえる。
「神崎お嬢様、池田を狙ってんのか?」
「あいつ婚約者いなかったっけ?」
「金持ち女が貧乏学生を追うって、ちょっと面白いな……」
池田の顔はさらに険しくなり、彼は鉄板返しを強く握りしめ、氷のように冷たい声で言った。
「何が本気ですか。あなたには婚約者がいるでしょう?」
婚約者と言われて、あのクズ男、周防秀利を思い出した。前世で彼は父の信頼を利用してインサイダー取引をし、最後はすべての責任を神崎家に押し付けた。
「あんなクズ、とっくに振ってやるつもりよ」
私は意に介さず手をひらひらと振った。
「それで、LINEはくれるの、くれないの?」
池田は私の大胆さに完全に度肝を抜かれたようだった。彼は私をじっと見つめ、まるで教師のように厳粛な口調で言った。
「神崎さん、自重してください」
そう言うと、彼は屋台を片付け始めた。明らかに立ち去るつもりだ。
私は心の中で焦った。こいつ、なんて手強いの! 前世ではあんなに優しかったのに、今はまるで毛を逆立てた野良猫みたい。
「池田くん!」
私は彼を大声で呼び止めた。
「一生屋台を引くわけじゃないでしょ? 私の彼氏になるってのはどう? 食事付き、住居付き、お小遣い付きで!」
この言葉に、野次馬は完全に沸き立った。
池田の顔は熟したリンゴのように真っ赤になり、彼は慌てて屋台を押して逃げ出した。去り際に一言だけ投げかけてくる。
「神崎さん、もうそういうことは言わないでください!」
慌てて逃げていく彼の背中を見ながら、私は落ち込むどころか、むしろ笑みがこぼれた。
彼の耳の付け根の赤みと、屋台を押す手が微かに震えていたのが見えたからだ。
この意地っ張り。明明ときめいているくせに、まだ冷たいふりをするんだから。
私は校舎の窓辺に寄りかかり、グラウンドで池田が真剣に屋台を片付けている姿を眺めていた。
桜の花びらが舞い落ち、その光景にどこかロマンチックな雰囲気を添えている。
前世の池田はどんな人だっただろう?
優しくて、思いやりがあって、甘やかしてくれて、愛情深かった。毎朝私のために愛情弁当を用意してくれ、夜は退屈なメロドラマに付き合ってくれた。病気の時には夜中に起きてお粥を作ってくれた。彼は甘い言葉を口にすることはなかったけれど、無償の愛とは何かを行動で示してくれた。
けれど目の前の十七歳の池田は、まるで警戒心の強い子狼のようで、全身が防衛心と強情さで覆われている。
十年の歳月は、一体彼に何を経験させたのだろう。
彼の日記の言葉を思い出す。
『俺は神崎さんに相応しくない。遠くから見ているだけで十分だ』
この頃からもう、彼は私のことが好きだったんだ。ただ、その想いは心の奥深くに埋められて、彼自身でさえ認めるのを恐れていた。
「知恵、朝からどうしたの、ぼーっとして」
クラスメイトの植松聡子がやって来て、興味深そうに私の視線の先を追った。
「あ~、池田くんを見てるんだ? もしかして本気で好きになっちゃった?」
「うん」
私は隠すことなく頷いた。
「すごく格好いいし、魅力的だもの」
聡子は私のあまりの素直さに驚いた。
「でも……彼、家は裕福じゃないし、性格もすごく冷たいし、学校でも友達いないし……」
「それが何?」
私は彼女の方を向いて言った。
「格好よければそれで充分」
「……」
それ以上は説明しなかった。前世の苦しみが私に一つの真理を教えてくれた。人を愛するのに多くの理由は要らないけれど、人を逃せば一生の後悔を背負うことになる。
この人生では、前世にはなかった積極性と情熱で、池田の心の中にある氷の壁を溶かしてみせる。
彼に教えてあげるんだ。彼は世界で一番の愛に包まれる価値があるってことを。









