第5章 カラオケの狂った夜

池田は私の手に引かれ、よろめきながらカラオケボックスを後にした。

外の冷たい空気に当たるまで、彼は我に返らなかった。そして、私の手を振り払った。

「神崎さん……なぜ?」

彼の声は震え、その瞳には信じられないという色が浮かんでいた。

「どうして、俺なんかを?」

ネオンの光に照らされてどこか青白い彼の顔を見ていると、胸が締め付けられるように痛んだ。

この馬鹿は、今になってもまだ自分が愛される価値があるなんて信じていないのだ。

「好きだからよ」

私は当然のように答えた。

「理由なんて必要?」

池田は目を大きく見開き、私の言葉に急所を突かれたかのように狼狽えた。

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