第300章 戻らない

小島文彦はすでに着替えていた。ダークネイビーのスーツに、黒のストライプシャツ。その姿は以前よりもずっと洗練され、育ちの良さを滲ませている。

だが、ソファに深く腰掛け、足を組んでいるその態度は、相変わらず不敵で奔放そのものだ。

対する中林真由はいつも通り。仕立ての良いジャケットにタイトスカートという、彼女の仕事における戦闘服とも言える装いだ。

彼女の声は鈴を転がしたように澄んでいて、どこか微かな笑みを含んでいるようにも聞こえる。

正直なところ、彼女は少し戸惑っていた。小島文彦のような人間が、本当に自分を待っているとは思わなかったからだ。

小島文彦は立ち上がり、彼女の目の前まで歩み寄る...

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