第375章 彼女の男

車に乗り込んでも、中林真由の張り詰めた糸が緩むことはなかった。

脳裏に焼き付いて離れないのは、今野敦史のあの最後の表情だ。

まるで捨てられた子犬のように、哀れっぽくこちらを見つめていたあの目。

一方、小島文彦は上機嫌だった。その口調には隠しきれない他人の不幸を喜ぶ響きがある。「今野社長があんなに悔しそうな顔をするなんて初めて見たよ。なんだかすごくスカッとするね」

「いつも上から目線の彼しか見ていませんからね」

中林真由は乾いた笑いを漏らしたが、言葉は少なかった。

今野敦史が、悔しがっていた?

まさか。……いや、確かにそうだったかもしれない。

さっきの彼は一体何だったのだろう。...

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