第19章

健診が終わっても、谷口凛華はまだ戻ってこなかった。

桐生颯馬はむっつりと顔をこわばらせていた。ひとたび機嫌を損ねれば、まわりの空気までぴんと張りつめる。

診察室を出ると、谷口凛華がまだ廊下の突き当たりで電話をしているのが見えた。桐生颯馬はそのまま歩み寄る。

「ママ」

たった二文字。なのに声の奥には、隠しきれない甘えと拗ねた響きが滲んでいた。

谷口凛華は通話を切り、眉を寄せる。

「今から学校まで送るわ」

車は道路をすいすい走っていく。けれど車内の空気はどこかちぐはぐだった。いつもなら谷口凛華のほうから何かしら話題を探して、息子に話しかける。なのに今日は、彼女はひっきりなしにスマホ...

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