第62章

夜が明けた。

谷口凛華は朝日を浴びて目を覚ました。寝返りを打つと、隣はひんやり冷たい。

桐生朔弥は、もう出た……?

それとも、夜中に?

洗面所へ行き、顔を洗う。ちょうど岡野明裕から電話が入ってきて、荷物をまとめて下船の準備をするよう告げられた。

――そうして部屋を出た、その瞬間。

廊下の向こうから、桐生朔弥が歩いてくる。

「おはよう」

彼が自分から挨拶するなんて、珍しい。

谷口凛華は小さく頷き、紅い唇を開きかけて――視線が彼の首元に落ちた刹那、瞳がきゅっと縮む。

朝から、艶めいた歯形。

白い肌に、赤い痕がやけに生々しく浮いている。

凛華は視線を外し、淡々と言った。

...

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