第9章

この世に、娘を愛さない母親なんているのだろうか。

多くの人は「いない」と言う。けれど彼女は知っている。「いる」のだと。

物心ついた頃から、彼女はまるで道具だった。母が父の機嫌を取るための道具。成績は常に1位でなければならない。習い事は片っ端から賞を取り、トロフィーを並べる。自慢に使える「出来のいい娘」でいることだけが求められた。

――それでも、母がどれほど必死に父へ媚びたところで、あの男は結局、浮気をした。

いまでも忘れられない。母が父の裏切りに気づいた日の、あの狂ったような姿を。髪を振り乱し、喉が裂けるほど叫び、やがて床に膝をついて縋りつき、ただ「もう少しだけ愛してほしい」と泣きな...

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