そう言って

彼女の呼吸が変わった。今はより柔らかく、深くなっている。欲情しているのに、それを隠そうとしている時の呼吸だ。彼女の姿が手に取るようにわかる。背中を壁に押し付け、俺が神経を逆なでした時の、あの半ば苛立ち、半ば興奮したような表情で唇を尖らせているはずだ。おそらくまだ仕事用の服のままだろうが、頭の中ではそれを脱ぎ捨てることを考えているに違いない。

「あなたって人は……」ついに彼女が口を開く。「本当にたちの悪い男ね。用件もまだ言えてないのに、もう会話を口説き文句のほうへ持っていくんだから」

「用件だって?」俺は車を車線に入れながら尋ねる。「今日は金曜日だろ。てっきり『ヤリたいから来て』って電話かと...

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