第193話ポップコーンを持って来ればよかった

最初の一撃は速かった。正確。そして制御されていた。

エレナは手加減をしていなかった。

ドミニクはかろうじて避けるのがやっとだった。最後の瞬間に身構えを変え、彼女の拳が顎をかすめる空気の奔流を感じる。

記憶にある通り、彼女の動きには今もキレがあった。

そして、もしかしたら――ほんの少しだけ、彼はそれが気に入っていたのかもしれない。

彼は反撃に出た――素早いブロック、フェイント、そしてカウンター。

だが、エレナはただ速いだけではなかった。

彼女は忍耐強い。計算高い。ほとんどの人間が過小評価する類の、命を奪いかねない危険さを秘めている。

だが、ドミニクは違う。

彼は彼女を一度たり...

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