第129章 私は何もいらない、ただ離婚だけが欲しい

彼女の声は、風にさらわれそうなほどかすれていた。

「……だから、私が何を言っても無駄なんでしょ?」

黒崎逸臣の喉仏が、ごくりと上下する。言葉を探して口を開きかけた瞬間、夏目霧子がそれを塞いだ。

「じゃあ、ここで時間を溶かすのはやめよう」

夏目霧子は一歩踏み込み、彼と真正面から向き合う。距離は半メートルもない。

「今日、離婚しに行こう」

黒崎逸臣の瞳孔が、きゅっと縮んだ。

「お金はいらない。株もいらない。何もいらない。離婚だけ」

一語一語、噛み砕くみたいに言い切る。

持っていたものを、全部、投げ捨てるみたいに。

「あなたはあの紙に、あの字を書くだけでいい。今日から先は――誰...

ログインして続きを読む