第135章 妊婦、薬の使用は慎重に

すれ違った刹那、夏目霧子は足早に通り過ぎた。黒崎逸臣の服の裾にすら触れないまま。

手首のプラスチック製リストバンドがドアノブに引っかかり、ぱちん、と乾いた音を立てて千切れた。病室の入口のカーペットに、白い輪が落ちる。

霧子は一言も発さなかった。

気づきもしないで、そのままエレベーターへ向かう。

黒崎逸臣はその場に立ち尽くし、背中が強張った。胸の奥に、苦いものがじわりと広がる。

――彼女は、一秒だって俺と同じ空気を吸いたくない。

俺がいるだけで、背を向けて行ってしまう。

喉仏がごくりと動いた。逸臣は踵を返し、保温容器を脇の棚に置く。

「見ろ! お前が来たせいで、霧子が帰っただろ...

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