第23章 逸臣、痛いよ

「霧子」

黒崎昌仁が唐突に、空になった湯沸かしポットを指さした。

「熱いのが飲みたいんだが、これじゃ冷めちまってな。悪いが、ついでに注いできてくれんか」

「はい」

夏目霧子はポットを手に取り、踵を返して病室を出た。

VIP病室のフロアは妙に静かだった。給湯室は回廊の突き当たりで、角を曲がった先に小さな休憩スペースがある。

霧子がその曲がり角に差しかかった瞬間、足がぴたりと止まった。

――ひそひそと、抑えた声が聞こえる。

「逸臣、痛い……」

水野菜々美の声。甘えるようで、恨めしそうで。

霧子は反射的に息を殺し、壁へ背を寄せた。

続いて、黒崎逸臣の苛立ちを含んだ声が落ちてく...

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