第29章 海に飛び込む

ナタリー視点

「ん……っ」

喉の奥でくぐもった声が漏れる。けれど口にはガムテープが貼られ、音にならない。

両手は椅子の背に回されたまま、ロープで縛られていた。

ざらついた縄が剥き出しの肌に食い込み、手首が焼けるように痛む。

辺りは一面の闇。見えるのは、波が一定の調子で杭を打つように叩く、そのかすかな気配だけ。

最悪。私が迂闊だった。

あの午後、フラニは埠頭近くのレストランで、あの障害のある夫婦と会う段取りをつけた。

私は、まんまとそれを信じた。人目の多い店なら、連中も下手な真似はしないだろうと高を括っていたのだ。むしろ、どこまで姑息な手を使ってくるのか見てやろうとさえ思ってい...

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