第100章 とっくに気にしていない

警察に通報するという綾瀬悠希の言葉を聞き、桜井恵那の瞳の奥に、隠しきれない狼狽の色が走った。

 綾瀬悠希は構わず言葉を続ける。

「あのネックレスに使われているのはエメラルドよ。定価は六千万円。それに限定モデルだから、今の市場価格は一億六千万円まで跳ね上がってるわ。これだけの被害額なら、泥棒さんは十年か八年、刑務所の中で頭を冷やすことになるでしょうね」

 その言葉に、桜井恵那の顔からは一瞬にして血の気が引いた。

 桜井家の御隠居様は、そんな恵那の様子を見てすべてを察し、失望に瞳を閉じる。

「……もうよい。失くしたものは仕方がない、警察には通報するな」

 そう言い捨てると、彼女は首を振り、...

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