第163章 夜寝る時は鍵をかけて

綾瀬悠希には、どうしてもその名が呼べなかった。

 普段、彼女の前では穏やかな表情を見せているとはいえ、藤堂譲はあの『財界の殺戮神』と恐れられる男だ。その異名が脳裏に焼き付いている以上、どうしても畏怖の念が拭いきれない。

 そんな相手に対し、急に愛称で呼べと言われても、綾瀬悠希はただただ恐縮してしまうばかりだった。

「どうして呼べない? 『譲ちゃん』という言葉は、そう発音しにくいものでもないだろう。それとも……俺を友人とは思っていないのか」

「いえ……そういうわけではなくて……ただ、急には慣れなくて……」

「なら、名前で呼んでくれ。それならいいだろう?」

「……藤堂、譲?」

「ああ...

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