第165章 人を殴るのも少し疲れた

送信ボタンを押して三秒も経たないうちに、望月恒から着信があった。

「どこの署だ? 怪我はないか?」

 綾瀬悠希の耳に届いたのは、少し嗄(か)れた声だった。どこか聞き覚えのある響きだが、今の彼女にそれを深く考える余裕はない。

 彼女は淡々と答えた。

「怪我はないわ。声が出ないんじゃなかったの?」

「ゴホッ、ゴホッ……風邪気味でね。今、地方にいるんだ。でも心配するな、すぐに友人に頼んで――」

 その言葉を聞いた瞬間、綾瀬悠希の中で何かが冷めた。

「もういい。他の人をあたるから」

 そう言い捨てて、彼女は一方的に通話を切った。

 肝心な時にいつも不在。こんな夫に何の意味があるというのか...

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