第169章 まだ離婚したいか

翌朝、綾瀬悠希は早々に荷造りを終えていた。

 帰国してから桜井家に滞在していた期間は短く、未練も荷物もほとんどない。スーツケース一つあれば十分だった。

 残りのノートパソコンと数枚のデザイン画は、無造作に愛用のリュックへ放り込む。

 これだけの荷物ならタクシーで移動できるが、夫となる望月恒が迎えを寄越すというなら断る理由はない。交通費が浮くのは合理的だ。

 約束の時間までまだ少しある。綾瀬悠希は祖母の部屋へと足を運んだ。

「おばあちゃん。何かあったら、すぐに私に電話してね。ひとりで抱え込んだりしちゃ駄目よ」

「……ああ」

 桜井家の御隠居様は、声を詰まらせた。

「婆のことはいい...

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