第189章 彼は麻痺したのか?

「え?」

 咲子さんはステーキを裏返す手を止め、呆気にとられたように訊き返した。

「今朝ここに来たのは貴女じゃないわね。忘れ物をしたというのも嘘。……そうでしょう?」

 咲子さんの額にじわりと汗が滲む。顔色は見る見るうちに蒼白になり、手元も小刻みに震え始めた。

「焦げるわよ」

 綾瀬悠希が冷ややかに忠告する。

 咲子さんは慌てふためいて肉をひっくり返し、皿に盛り付けると、おそるおそる悠希の前に差し出した。

「咲子さん、実直な方だと思っていたのに。まさか嘘をつかれるなんて……正直、少し失望しましたわ」

 そう言い捨て、悠希は彼女の手から皿を受け取り、テーブルについて食事を始めた。...

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