第30章 違う藤堂譲

藤堂譲は、明日も綾瀬悠希に避けられるだろうと考え、藤堂若葉を家に送った後、運転手に車を桜井家へと向かわせた。綾瀬悠希を呼び出し、正式に謝罪するつもりだった。

「え? あれは綾瀬さんでは?」佐藤補佐の声が、彼の思考を引き戻した。

「どこだ?」

運転手が車を停め、佐藤補佐が窓を開けて、道端をあてもなく歩いている一人の女性を指さした。

「藤堂社長、ご覧ください。あれ、綾瀬さんじゃありませんか?」

「……ああ」

藤堂譲は躊躇いなく車を降り、綾瀬悠希の方へと歩き出した。なぜか、今の彼女はひどく軽く、一陣の風にすら吹き飛ばされてしまいそうに感じられた。

「綾瀬さん、大丈夫か?」

綾...

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