第57章 信頼の崩壊

電話を切り、藤堂譲は心中に渦巻く複雑な感情を抑え込んだ。

以前、綾瀬悠希が自分の前で見せた遠慮がちな態度や、何度か言いかけてはやめた様子を思い出すと、藤堂譲の心の中にはすでに答えがあった。

だが、信じたくなかった。

クレンジングコットンを見つけ、急いで藤堂若葉の顔を拭いてやると、藤堂譲はひとまず帰ることにした。

「いや、帰りたくない。ここにいて綾瀬先生と一緒にいるの」藤堂若葉は病室のベッドの柵を固く掴んで離そうとしない。

「わがままを言うな」藤堂譲は眉をひそめた。「明日また来よう」

藤堂譲の機嫌が良くないのを見て、私も藤堂若葉を説得する手伝いをした。

「若葉ちゃん...

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